象に乗る


象に乗ったことがある。



10年も前のことだ。



タイのアユタヤという町で。



何のことはない。観光地で観光客向けのアトラクションとして往復10分ほど象に乗って町を歩いたというだけの話。5000円くらい払ったように記憶している。金持ち観光客向けのぼったくりビジネス。でも、象に乗れる機会なんてそうないからみんな文句も言わず払ってしまう。



乗り心地は悪くなかった。普段の生活では考えられないくらいの高さでゆっさゆっさと歩く象。象の毛でちょっとチクチクしたけれど、初めての体験に興奮し、ずっと笑顔でいたことを覚えている。10年経った今でもこれだけはっきり覚えているとは、私の記憶も捨てたものではない。象には負けない?



曲芸をする象のアトラクションもあった。象のショーだ。鼻で絵を書く象もいる。



そんな商業的な役割を担っている象も昔は王様の乗り物だったという。



戦争があると人間とともに戦い、平和なときには山や森で材木を運んだり、農業の手伝いをした。



タイでは象は神聖な生き物として丁重に扱われている。象に乗るアトラクションでも手綱を握って一緒に歩いてくれた人は調教師というより従者といった雰囲気だった。実際、仏教に深くかかわり、お寺のあちらこちらに象の像がある。また、象は過去世で仏陀の前身だったという話も聞いたことがある。



一部には商業的な役割を担わせることに批判的な意見もあるけれど、文明の進化の一過程として捉える方が自然ではないか。



もちろん動物虐待は論外だけれど、社会の発達に合わせて人間が自然や動物と共存共栄する一形態なのであればむしろ賛成の立場を取りたい。



象にまつわる話をこの3日間連続ですることになった。



これも何かの縁。



今回で象三部作は完結するが、また、どこかで象に出逢えた日には戻ってきたい。



象は忘れない、のだから。