不識塾 課題図書 -暴走する資本主義-

 

今年の月一企画も11回目を数えることになった。

 

今月の一冊はこれ。

 

暴走する資本主義

暴走する資本主義

 

 

読み応えのあるハードカバーの分厚い本ながら一旦ページを開くと読み易く、面白く、あっという間に読み終えることができた。

 

週刊東洋経済2008年上期のベスト経済・経営書100のうち第2位にも選ばれている。

 

本が書かれてから7年が経とうとしているのに古さは全く感じない。むしろ、現在我々が置かれている状況の方がより記述に合っていると言っていい。

 

本書を一言で表すとこうなる。

 

資本主義は大成功を収め、民主主義を衰退 せしめた。さて、どうする?

 

もう少し説明が要るだろう。

 

自由市場とセットになっている資本主義の説明は今さら必要ないだろうが、民主主義はこんな風に市民の観点から説明がされている。

 

民主主義というのは自由で公正な選挙のプロセスをさすだけでなく、それ以上の意味を持っている。私が思うに、民主主義とは、社会全体の利益につながる仕組みやルールを決定するために、市井の人々がほかの人々と手をつなぎあうことによってのみ達成することができるシステムだ。

 

原書のタイトルになっている"Supercapitalism"、「暴走する資本主義」が私達から市民としての力を奪い、もっぱら消費者や投資家としての力を強化することに向けられてきたとの指摘は鋭く、興味深い。

 

資本主義がどのような経緯で発展してきたのかが紐解かれ、その要因である人間の二面性についてたくさんの例を持って示される。

 

ここで言う二面性とは、私達は消費者、投資家の側面と市民としての両面があるということ。

 

社会に大きな影響を及ぼす企業や法人は資本主義を発展させ、消費者や投資家に恩恵を与える一方、公害や様々な形として表れる労働者問題を引き起こす。

 

私達が消費者であり、投資家であると認識する時はより安く、品質の高い商品を購入したいし、より高い利益率を求めるけれど、それが低賃金労働者や長時間労働、発展途上国の未就学児の労働他に支えられていることを忘れてはならない。

 

つまり、消費者や投資家の立場と社会の一員としての市民の立場では利益相反することがあり、それはそのまま資本主義と民主主義の構図で表され、前者が後者を圧倒していると指摘される。

 

その解決策の一つとして、企業のCSR(企業の社会的責任)が注目されているけれど、その分析がなされ、本質的な問題解決にはならないと結論づけられる。

 

最後に「超資本主義への処方箋」としてここまでの議論の総括と提言がされる。(少し長いがわかりやすいのでそのまま掲載させていただこう)

 

ここまでの話を総括しよう。超資本主義は、経済的な権力が消費者と投資家へと移っていくとともに、勝利していった。今では、消費者と投資家は、かつてないほど多くの選択肢を持ち、いつでも簡単により良い条件の取引に乗り換えることができるようになった。そして彼らを振り向かせひきつけておくための企業間の競争もますます激しくなっており、その結果ますます安い商品や、より高い投資収益が提供されるようになった。しかし、超資本主義が勝利すればするほど、それによる影の部分が社会に大きく現れてくる。例えば、経済成長による収益の大部分が一握りの最富裕層にしか向かわないことによる経済格差の拡大や、雇用不安の増大、地域社会の不安定化や消失、環境悪化、海外における人権侵害、人々の弱みに付け込もうとさまざまな商品やサービスが過剰に氾濫していることなどである。中略
民主主義は、まさにこうした社会問題に対応することのできる最適な方法である。民主主義によって市民の価値観というものが示され、消費者や投資家としての私たちの要望と、全体としてともに達成したい要望との間の調整がなされるはずなのだ。しかし、超資本主義としての私たちの要望と、全体としてともに達成したい要望との調整がなされるはずなのだ。しかし、超資本主義を加速させたのと同じ競争が、政治決定プロセスにまで波及するようになった。大企業はロビイスト、弁護士、広報スペシャリスト、などの専門家集団を雇い、また多額の資金を選挙活動に注いでいる。その結果、市民の声や価値観というものはかき消されてしまった。また産業別労働組合、地方の市民団体、「企業ステーツマン」や監督官庁など、類似黄金時代に市民の価値観を示していた旧い体質の組織は、超資本主義の突風に吹き飛ばされてしまった。
改革派の多くは、超資本主義による不快な副作用から民主主義を守ろうとするのではなく、ある特定の行動を変えることに専念するようになった。倫理感に溢れる企業を讃える一方、社会的に無責任な企業を攻撃する。結果として、企業の行動にはわずかな変化が現れた。しかし、もっと大きな影響として、人々の関心を民主主義を修復するということからそらしてしまうという結果をもたらした。

 

「暴走する資本主義」への処方箋としては民主主義の象徴とも言える選挙には「公共の電波を使用して候補者の選挙広告は無料で流す」「ロビイストが顧客企業から献金を集め取りまとめることを禁止する」「企業や経営幹部から議員への寄贈を禁止する」等、企業(=資本主義)の社会に対する影響を限定する試みが提言される。

 

しかし、本書の後書きを担当している経済評論家の勝間和代氏はこう締め括っている。

 

もちろん、超資本主義の解決方法は一つではないだろう。しかし、すべてにおいて「問題を正しく把握すること」から問題の解決は始まる。そして本書を読むことで、現状の問題点と課題を整理し、資本主義の行方の仮説を得ることができる。格差社会の拡大に悩む私たち日本人にとっても、これまでの歴史、考え方のヒント、今後の解の可能性が得られるだろう。

 

そう。

 

まずは知ること。

 

問題を正しい形で把握すること。

 

全ての行動はそこから始まる。

 

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