風であり、雲であった


昔はいろんなことがしたかった。



あれもしたい、これもしたい、ここに行きたい、あそこにも行きたい。やりたいこと、行きたいところが山ほどあった。



何か一つのことに縛られることが嫌で嫌でたまらなかったし、どこか一か所に落ち着くなんて逆立ちしたって考えられなかった。



憧れは風であり、雲であった。



やがて学生時代は終わり、仕事に就き、追いかけるべきものが明確になった。集中すべき対象が定まると自分でも驚くほど周りの景色や環境が気にならなくなった。



憧れは風や雲のようにどこかへ消えていった。



代わりに、



仕事場にあれもしたい、これもしたい、が山ほど現れた。



ここに行きたい、あそこに行きたい、が叶えられた。



それは今も変わらない。



だから、今もこの場所にいる。



風に吹かれて。



雲を見上げて。