ステチリオン

「ステチリオン」



聞き慣れない言葉は村上春樹氏の新作小説だ。



と言っても現実のことではない。キャンプ初日の寝苦しい夜、夢の中に出てきたタイトルと物語。敬愛する村上春樹氏には一切関係がないことを最初に断っておく。



設定はこうだ。



村上春樹氏の新作「ステチリオン」が全世界で同時発売される。もちろん日本では日 本語版が、他の国ではその国の言葉に翻訳されて。



舞台はヨーロッパ。



時代は現代。或いは近未来。21世紀初頭であることには間違いない。



第2次世界大戦が20世紀半ばに終了した後、地域ごとの紛争や戦争は続いたものの世界を巻き込む「戦争」=「世界大戦」は永遠に姿を消したかと思われた。



しかし、それは幻想で終わることになる。



イギリスが「何か」をきっかけに南米諸国との国交を断絶する。



次にイギリスと残りのEU諸国の間にものっぴきならない問題が持ち上がり、あっという間にヨーロッパ全体を巻き込むことになる。世界はそれを「ヨーロッパ紛争」と名付け、各国の、各国首脳の一挙手一投足から目が離せられなくなる。



「ステチリオン」が全ての鍵を握っている・・・



繰り返すが、上記の設定は私個人の夢に出てきたものに過ぎない。「夢」であるために物語に一貫性や信憑性を求めることがナンセンスだということも今一度思い出していただきたい。



物語はミステリーと冒険小説が組み合わさり、いつもの村上氏の「魔法のかかった言葉」で丁寧にかつスピーディに展開されていく。具体的な登場人物や状況描写は全く記憶にないが、物語の流れと過去のどの作品にも見ることのできなかった重厚な言葉の選択が著者の気合いと人類の歴史と未来への責任感を強く感じさせた。



しかし、著者の意図と力量とは裏腹に、否、その作品があまりにも圧倒的な力を持っていたが故に悲劇が繰り返されることになる。



結果的に小説が未来を予言する形となり、人類は21世紀をも戦争の時代にしてしまうのだ。



明るい未来像とは決して言えない。



かと言って、全く現実離れしている設定とも言い切れない。規模はどうあれ我々人類は有史以前から争いを繰り返してきた。たまたま大規模の戦争をここ数十年間起こしていないだけと捉えることに小説家の想像力は必要としない。



夢から覚めて、ホッとした。



と同時に、戦争のない時代を生きていることの有り難さを実感した。



そして、我々の生きている今という時代もこれまでの歴史と何ら変わることなく、明日へと命をつなぐために我々自身が必死に綱渡りをしていることに気づいた。



夢の中では最後の最後まで「ステチリオン」が一体何かはわからずじまいだった。



今一度考えてみる。



それは単なる小説上の仕掛けではなく、ましてや「戦争の時代に戻る問題小説」でもない。人類史から戦争はなくなったという幻想を打ち破り、我々に危機感をもたらすことで本当の世界大戦を回避する「奇跡の作品」なのではないかと。



村上春樹氏に本物の小説を書いてもらおう。



そして、ノーベル文学賞と平和賞の同時受賞をしてもらおうではないか。