不義理の帰結


気のおけない仲間たちとたわいもない話題で盛り上がっていた。



そこに昔からの友人であるアメリカ人女性がやってきて、しばし挨拶の言葉を交わした後、母からメッセージがあると言い、小さな箱を取り出した。



それはひと昔前のカセットテープのような姿形をしていた。しかし、全く異なる材質でできているのは一目でわかり、Appleの新製品を思わせた。



すると突然人の声を発し始めた。



それはその箱を持ってきたアメリカ人の友人のお母さんの録音された声だった。



メグライアンが歳をとったらこんな風になるんだろうな、と昔感じた思いが一瞬で再現される。美しく明るい彼女のことを思い出す。と同時に、小さな箱から流れてくる英語がちゃんと理解できるだろうかと不安がよぎった。



元気いっぱいの彼女の声が広がる。私に気を遣っていつもよりゆっくりはっきり話してくれている。「あ、そうだった。いつもこんな風に優しそうに話してくれてたんだ。」



「あ、これなら大丈夫そう。」安堵の息が漏れた時だった。一瞬の間があり、次の瞬間、声のトーンも話し方もガラッと変わった。



日本語になったのである。



彼女が日本語を話すのなんて聞いたことがなかった。いつから?どうやって?そんな疑問が幾つも頭に浮かびながらも彼女の声に集中する。



ゆっくり一語一語を丁寧に発音しようとしているのがよくわかる。彼女の誠実な人柄と優しさが声と話し方から溢れ、何かを伝えようとしている。



周りの仲間たちも急に日本語になった声に戸惑いは示しつつもその方が私のためになることを察知し、温かい雰囲気で包んでくれる。



自分でもちょっとしたサプライズに心が浮かれていたからなかもしれない。話の内容が明るく楽しいものだと勝手に想像を働かせていただけにその内容が全くそれまでの性質と異なっていたことに気づいた瞬間、座っていた椅子から崩れ落ち、嗚咽を漏らして泣きじゃくった。



止めどもなく涙が流れ始めた。



友人たちも急変した私の尋常じゃない姿に心配した表情を浮かべるもその箱から流れる優しく、悲しい声が響いている間は無言のままでいてくれた。



話の内容はよく覚えていない。



自分でも知らぬ間に不義理をしていたことで大切な人をここまで深く傷つけていたようなことだったように記憶している。



昨夜見た夢である。



自分の嗚咽で目が覚めた。



現実の世界で誰かに不義理をしていないだろうか、誰かを深く傷つけていないだろうか。



そのことに気づかせるためのサインだったのではないか。