無意識世界からの奪還

いつも使っているシェービングクリームに手を伸ばした瞬間、何かが舞い降りた。



髭剃り(シェーバー)とアフターシェーブローションを一つずつ丁寧に戸棚から取り出す。



シェービングクリームの頭の部分をおもむろに押さえる。噴射口がクリームから離れないように意識しながら左の手のひらにピンポン球サイズに広がっていくのをじっと見つめる。



右手にクリームを取り、左の頬から顎にかけて、次に鼻の下、そして右側にかけて満遍なくクリームを広げていく。



水をつけた髭剃り器を左の頬から上から下へと滑らせていく。次に下から上へと・・・



これまで何万回と行っている工程を意識して丁寧になぞることになった。



一つひとつの動きに意識を向け、その意味と効率と美しさを考慮しつつ丁寧に行っていく。



何故かはわからないけれど、



気持ちいい。



顔は自然に笑顔になり、動きも軽やかだ。



今まで無意識に行ってきた行動を意識的に行えたことで「取り戻せた感」を感じられたからかもしれない。言わば「無意識世界からの奪還」。



髭を剃るという半ば自律神経に任せていた日常作業を自分の意識下に持ってこれたということは、手間を増やすことである以上に人生を楽しめる要素が一つ増えたことを意味する。



次は歯磨きだ。