秘密のカップル

 

いい歳をしたおじさん二人が手を繋いで歩いている。
 
 
そう思った。
 
 
次の瞬間、それが大きな間違いであることに気づいた。
 
 
一人がお縄を頂戴している!
 
 
かけられている手錠をうまく布で隠しているけれど、一瞬手をつないでいると見えるほど近い手と手の間隔は不自然きわまりない。
 
 
二人の歩き方、それぞれの表情、空気感、どれをとっても普通ではない。
 
 
すれ違いの一瞬なのに、どちらが刑事でどちらが犯人(容疑者)なのか、どんな犯罪を犯したのかが頭の中を駆け巡る。
 
 
何の根拠もないし、確かめる方法もないけれど、妙に納得している自分がいる。
 
 
普段は眠っている、或いは鈍っている感覚が異常事態に一瞬で呼び覚まされ、研ぎすまされる。
 
 
全ては一瞬のこと。
 
 
秘密のカップルが呼び起こしたものは自分の中に眠っていたそんな野生の感覚だったのかもしれない。
 
 
ちょっとした驚きとほんの少しの嬉しさが漂った。