東京の朝は驚くほど静かだ。
7時過ぎにホテルをチェックアウトして街へ出る。
厚い雲に覆われた空は世界を灰色に染めている。
歩いている人たちは感情を家に置き忘れてきたかのような無表情。中にはスマートフォンに視線も心も奪われたまま歩いている。
地下鉄もまだ混んではいない。
スマホ、文庫本、朝刊に顔をうずめている人たちがいる。イヤホンで音楽を聴いている人がいる。数分の眠りで睡眠不足を補おうとしている人がいる。
電車内で会話する人たちはほとんどいない。走行する電車の音と時折流れる車内放送の他には何も聞こえない。目を瞑っていると誰もいないのではないかと思えるほど。
新宿や赤坂見附や霞ヶ関、銀座といったニュースキャスターがテレビで口にする駅にもまだ人はまばらだ。
世界一の大都会の朝は驚くほど静かに明けた。
長い一日が始まる。