流れ作業の製品

年に一度の健康診断が始まった。



受付で予め渡されていた問診票と検便検尿を渡す。その時初めて検尿容器を入れる小さな袋を事前にもらっていたにも拘わらず、検便用のものに一緒に入れていたことに気づく。受付の人は嫌そうな表情一つ浮かべることなく、検便用の緑色の袋から検尿容器を取り出し、所定の袋に入れ替えてくれた。そのプロフェッショナルさに恥ずかしさはどこかへ吹っ飛び、感心が取って代わった。



着替えを済ませ、最初の関門(?)は血圧チェック。機械に腕を通すと「プシュー」っと空気で膨らんだバッグが伸ばした二の腕を押さえつけ、自動的に測定が始まる。ほんの15秒ほどで終了。数値は正常範囲内。



次は今日の健康診断の流れと簡単な問診が行われる。研修中と書かれたプレートを胸に付けた年配の看護師さん(?)はとても感じ良く、検査項目の確認と予め書いていた問診票に基づき幾つか質問がなされる。最後にお腹周りを測定して終了。こちらも正常範囲内。



次の検査場所は一階下とのこと。階段を降り、視力検査のエリアに着いた瞬間、名前を呼ばれ席につく。すぐに検査が始まった。



台の上に置かれてある小さな機械に両目を当てる。小さな頃から親しみのある「C」が一つだけ見える。「右」と声をあげるのではなく、小さなレバーで輪っかの空いた方向に倒す。それが何度も繰り返される。その間、会話が交わされることなく、スライド写真のように次々にどこかに穴の空いた輪っかが消えては現れ、現れては消えていく。「え、終わり?」と思った瞬間、紙を渡され、そこには右目と左目の視力が書かれてあった。「こちらでよろしいですか?」と聞かれて「はい」と答えたものの「もう少し見える方がいいんですけど」と思った。心の中で。



その後は、身長体重測定、聴覚検査と続き、胸部レントゲンを撮り、メインイベント(?)の胃の検査に移る。



検査技師もまた感情を取り除かれたヒューマノイドのように機械的に工程を説明する。炭酸顆粒とバリウムを渡されて少し憂鬱な気分になる。覚悟を決め、炭酸を口に含み、バリウムで胃の中に流し込んでいく。



宇宙飛行の訓練のような機械に乗せられ、技師の指示に従ってぐるぐると回る。機械も回る。しばらくすると「もう少しですよ」と勇気づけてくれる。最後に機械のアームがお腹のいろんな場所を押していく。痛くはない。むしろ、「どんなセンサーを使っているのだろう?」と思うほど弱過ぎず強過ぎず絶妙な加減。「お疲れ様でした」の一言をかけられ、最後の項目が一つ上の階だと案内される。



血液検査と心電図、そして医師による問診。血液検査では、ベテラン風の看護師さんで安心。痛みはなく、出血もほとんどなかった。感謝。次の心電図検査室はすぐその隣。カードを持って移動しようとするとすぐ名前を呼ばれた。心電図検査もあっという間に終わり、20代女性の技師に「今日は空いてますよね?」と尋ねると、「そうですね。スカスカで驚いてるくらいです」と笑顔で答えてくれた。



最後の問診を担当するドクターは30代後半から40代前半と思われる男性医師。無口な先生。でも、聴診器を使った診察、触診はとても丁寧で信頼感あり。特に問題もなさそうでこれまたあっという間に終了。



全ての工程を約1時間で終えた。新記録かもしれない。



その後、簡単な食事が出た。





去年までとは納品業者が異なっていることに気づく。



優しい味付けは変わらずで思わずほっこり気分。



最後はコーヒーで一服。



1年に1回、こうして流れ作業の製品の気分を味わうのも悪くない。