銀フォン

その村には楽器が一つもなかった。



自分たちで音楽を奏でようとする者は誰一人としてなく、そんな発想すら生まれなかった。



ある医学生がひょんな理由からその村を訪ねることになる。



彼がしたことは医療に関することではなく、ある楽器を届けることだった。



銀フォン



である。



僕は思わず聞き返した。



「何ですか、それ?」



「鉄琴を短くしたものだよ。4つの鍵盤でできたとても簡素な楽器。誰にでも簡単に弾ける。」



「え、4つの鍵盤だけ?」



そう思ったけれど、何か決定的な質問になるような気がして、思わず問いを飲み込んだ。



楽器というものを見たことも聞いたこともない村の人たちは医学生を歓迎し、銀フォンをためらうことなく叩いた。



今までに聞いたことがない音色が村中に響き、リズムが奏でられ始めると、少しずつ自然に人が集まり始めた。人々は思い思いの歌を口ずさみ、リズムに合わせて体を動かし、それぞれがそれぞれの想いを胸に音楽を楽しんだ。



人々に笑顔が戻り、活気が生まれ、みんなが生きていることを心から楽しんでいるように見えた。



しばらくすると、銀フォンが次第に熱を帯び始め・・・



そこで目が覚めた。



「音楽の力」を改めて知った気がした夢だった。