「カイロの紫のバラ」
そのタイトルを聞いてピンと来るのはよほどの映画通か少し年配の方かもしれない。
ウディ・アレンとミア・ファローのコンビで作られた1930年代のニュージャージーを舞台にした小作品。
タイトルになっている「カイロの紫のバラ」とは映画の中に出てくる映画のタイトルであり、エジプトのファラオがお妃に送ったピラミッド(墓)の中で咲く伝説のバラのこと。
映画の中で伝説のバラは登場しないし、今作品で重要な意味を持つわけではない。
ただ、その伝説のバラを追いかける人物、トム・バクスター、 探検家で考古学者(インディ・ジョーンズみたい??)は映画のプロット上大きな役割を果たす。
ここではこれ以上語らないけれど、彼の役割と彼が劇中で見せる葛藤は非常に興味深い。哲学について、人生について、あらゆるものの起源、死と現実世界の不思議さ、生命の神秘と偉大さについて語るシーンはコミカルでありつつ深い。この映画の重層構造の一面を垣間見る思いがする。
その他にも1930年代のアメリカの「大恐慌」がどんなだったのか、その時代に人々がどう生きたのか、女性の強さ、たくましさ、映画というエンターテイメントの価値、そんな社会的な側面も静かに、丁寧に描かれている。
こんな風に書くと社会派の重厚な映画を想像するかもしれないけれど、この映画の一番の見どころは、
プロット(話の筋、仕掛け)であり、シュールでコミカルでおしゃれで楽しい会話であり、ベテラン俳優の思わず引き込まれる素晴らしい演技。
トム・バクスターが言う。
「この世界は素晴らしいね。バラの香り 食物の味 音楽の調べ・・・」
そう。
どんな時代であろうが、どんな環境にいようが、どんな試練が降りかかろうが、
「この世界は素晴らしい」
バラの香り、食物の味、音楽の調べ・・・を思い浮かべられるのだから。
この現実の世界で生きていることを実感し、素直に喜びたい。