雨が強く降っている。
視線は窓の外に向かい、徐々に左上の方に流れ、次第に焦点がぼやけていく。
過去の記憶が呼び覚まされる。
学生時代に英語のスピーチコンテストに出ることになった。
「なぜ大人は雨に濡れるのを嫌うのか」というタイトルでスピーチを書いた。
「大人になること」がテーマだ。
スピーチコンテストに本気で入賞しようと思ったら、社会問題を取り上げるべきということははじめからわかっていた。
にもかかわらず、パーソナルなトピックに決めたのはその時の自分にはどうしてもその話題しか選べなかったから。
本気で「大人になることの意味」を考え続けていた。
スピーチの詳しい内容は覚えていない。
ただ、「大人になるということは雨に濡れることを嫌うようになること」という比喩を結論としたことは覚えている。
その心は「大人は自分のことよりも周りの人のことを優先させる」ということ。
当時、自分がしたいと思っていた海外留学や長期にわたる国内外のバックパッキングを家族や大切な人のために諦めるかどうかを真剣に悩んでいたからだ。20歳を過ぎたばかりの自分にとって本当に大切なことは何なのか。夢と現実の間はどこにあるのか。最終的に自分はどんな決断をするのか。なぜその決断をするのか。寝ても覚めても考え続けていたから。
今思えば「第3の道」もあったであろう。
しかし、当時は若さゆえ二元論の世界から回答を求めるしか思いつかなかった。
俺が選んだ道は「大人になる」ことだった。
長い年月が経った今でも後悔はしていない。
あれほど心と脳みそが沸き立つほど悩みに悩んだことはなかったから。
今も雨に濡れるのは決して嫌いではない。
あの時、学生投票による特別賞しか取れなかったスピーチの結論が間違っていたからなのか、未だ自分は大人になっていないということなのか。
答えはこの笑顔が表している。