不識塾 課題図書 -文明の衝突-

 

 

「これは、孤立する日本の未来を予測する衝撃の書なのか」 

 

  

文明の衝突

文明の衝突

 

 

 

 本の帯に書かれているコピーは「文明の衝突」というタイトルと同じくらいのインパクトを持っている。

 

 

この本が出版されたのは1998年。

 

 

その後16年という年月が流れ去り、近年、竹島尖閣諸島をめぐる問題、ウクライナ・クリミア危機、アラブの春の崩壊、東アジアの国々の経済隆盛と政治的不安定、そして、我が国の集団的自衛権の拡大解釈と今後の動きに日本国民だけでなく、世界の目が集まりつつある。

 

 

500ページにも及ぶ分厚い本は「文明とは?」から始まり(「文明は最も範囲の広い文化的なまとまりである」が最も簡潔な定義)、8つに分類された文明(中華文明、日本文明、ヒンドゥー文明、イスラム文明、西欧文明、ロシア正教会文明、ラテンアメリカ文明、アフリカ文明<存在すると考えた場合>)がどのようにバランスを保ち、シフトし、衝突してきたかを圧倒的な筆力で表している。

 

 

タイトルにもなっているショッキングな「衝突」については人類の歴史を振り返ると珍しいことではなく(むしろ、それが人間の歴史を創ってきたといってもよい)、「新たな時代を迎えつつある世界で、異なる文明に属する国々や集団の関係は、緊密になるよりも対立することの方が多い。そして、ある異文明間の関係は、他の関係よりも紛争が起こりやすい傾向にある」(P275)と当たり前の範疇として書かれている。

 

 

「今後、危険な衝突が起こるとすれば、それは西欧の傲慢さ、イスラムの不寛容、そして中華文明固有の独断などが相互に作用して起きるだろう」(P275)と思わず納得の分析。

 

 

その他にも「宗教」や「西欧の優位な地位の維持」(ワールドコミュニティの利益として)、「兵器の拡散」(軍事力の拡散は世界的に経済や社会が発展することによって当然起こる。日本や中国、イスラム諸国も同様。経済改革に成功すればロシアも再軍備に走るだろう)「人権と民主主義」(世界的な民主革命が起こりつつある)、「移民」(人口構成の問題は運命だと言われるが、もしそうなら歴史を動かしてきたのは人口の移動である)「戦争」などの切り口から人類、文明、社会が鋭く抉り出されている。(本が書かれてからの16年間に何が起こったか、起こりつつあるかを考えれば怖くなりさえする)

 

 

日本を一つの文明とする考え方には一部で異論もあるようだけれど、下記の推察にも思わず唸ってしまった。

 

 

日本人が国際社会に置ける日本の立場を考えるとき、日本の国内モデルから類推することが多い。日本人は国際秩序を、日本の社会の内部では明らかな、縦の組織形態の関連で特徴づけられる文化の形態を外部に示すことだと考える。国際秩序をこのように見るのは、長きにわたった全近代の日中関係(進貢システム)で得た経験によるところが多い。

 

  

最終章となる第5部は「文明の未来」と題して、それまでの議論を踏まえて人類、文明の未来について語られる。

 

  • 西欧の再生はなるか?
  • 世界の主要文明の中核国家を巻き込む世界戦争は起こりそうもないが、ありえないわけではない
  • 文明の共通した特性
  • 近代化による道徳面、文化面の進化(下記引用)

  

近代化によって一般的に文明の物質的レベルは世界的に高まった。だが、それによって文明の道徳的および文化的側面も高まっただろうか?いくつかの点ではそうであると言えるようである。奴隷制、拷問、個人に対する激しい虐待は現代の世界では次第に容認されなくなってきた。しかし、これはひとえに西欧文明が他の文化に影響を与えた結果であろうか、そしてそれゆえに西欧の力が衰退すれば道徳の後退が起こることになるのだろうか?(P493)

 

 

世界は「混沌」のパラダイムに突入したかのように見える。

 

 

そして、大作の最後はこう締め括られている。

 

 

平和と文明の将来は世界の主要文明の政治的、精神的、知的指導者たちの理解と強力いかんにかかっている。文明が衝突すれば、独立宣言を起草したベンジャミン・フランクリンが言ったことではないが、ヨーロッパとアメリカは団結する(hang together)だろうし、そうしなければ別々に絞首刑(hang separetely)に処せられるだろう。より大きな衝突、つまりは文明と野蛮な社会との間で世界的な「真の衝突」が起こった場合、宗教や芸術、文学、哲学、科学、技術、道徳、同情心を豊かに実現した世界の大文明は同じように団結するか、別々に絞首刑に処せられるかもしれない。

 

来るべき時代には文明の衝突こそが世界平和にとって最大の脅威であり、文明に基づいた国際秩序こそが世界戦争を防ぐ最も確実な安全装置なのである。(P494 締め括りの一文) 

 

 

今年の月一企画も折り返し地点を過ぎ、最初のコーナーは世界中に大議論を巻き起こした大作を選んだ。

 

 

現代の世界で起こっている出来事を歴史的、政治的、経済的、人類学的な考察の元に考えることでより立体的に理解できそうな気がした。

 

 

学ぶこと、勉強することは「見えないものが見えるようになること」なのだと改めて知ることができた。

 

 

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