修行する者


その人の髪は思わず触りたくなるほどふさふさだった。


曹洞宗の禅寺で半年の修行を終え、まだ間もないゆえの髪型。坊主頭から無造作に伸ばした髪はまるでねこじゃらしのよう。


岡山県 矢掛にある禅寺での修行に参加したのは実家がお寺の長男。地方の国立大学を出て一年間教育委員会で働いてから父でありお寺の住職との約束を守るために仕事を辞めて参加したという。


驚いたのは一緒に修行をした求道者30人のうち20人が外国人だったこと。フランス人が一番多く、ドイツやスペイン、イタリアからも多くの人が参加した。全参加者の3分の2が遥かヨーロッパから禅寺に修行しにくる事実にひたすら驚くとともに痛く感心した。(向こうには檀家がないから戻ってからも色々と苦労が多いらしい。それでも曹洞宗の海外への布教活動は着々と進んでいるとのこと)


毎日の修行は朝3時の起床から始まる。


座禅を組み、朝食を食べ、掃除や身の回りのことをする作務に励み、昼食を摂り、再び座禅を組む。そして、お経を唱える。


長い1日が終わるのは午後9時。


直ぐに就寝し、翌朝3時に目を覚まして新しい1日を始めるのだという。


「禅の真髄は何ですか?」


素人の率直過ぎる質問にも優しい微笑みを浮かべてその人は答えてくれた。


「1日1日を大切に思いながら生きることですね」


「それが必ず自分に還ってきますから」


修行した者の口から出てきた言葉はあまりにも普通だったけれど、不思議なほど説得力があった。