「デジタル ディバイド」というかつてのバズワードを思い出した。
新幹線で移動中、隣に座っていた年配の男性が突然話しかけてきた。
「バーコードは消せるのかな?」
最初意味がわからず困った顔をしていると、70はゆうに超えているであろう白髪のおじさんが手に持った野球帽を撫りながら自らの疑問を投げかけてきた。
「わかる? バーコードって。消せるんだろうか?」
「はい、バーコードはわかりますけど、何に付いているバーコードですか?」
そう尋ねると、
「病院にあるやつ。いろんな病院にあってそれを全部消したいんだけど、消せるんだよね?」
あ、この人はバーコード自体がデータで、自分の診療記録の全てがそこに蓄積されていると思ってるんだ。それを消しさえすれば全てが消えると思ってる・・・
もしかしたら不治の病に気づいてこれ以上家族に迷惑をかけたくないから、とか、覚悟を決めて何か思い切ったことをしようとしているのかもしれない、とか、妄想が一瞬頭を過ぎる。
あと5分で目的地に着く。
バーコードはあくまでデータが貯蔵されている場所までの道標のようなもので、データ自体は別に格納されていて、そのデータを(患者の意志で)消去できるかどうか、は・・・を頭の中に置き去りにしたまま発した言葉はこれだけだった。
「ごめんなさい。わからないです。」
おじさんは「そうですか。わかりませんか」と呟き、暗闇しか見えない窓の外をじっと見つめていた。
デジタル ディバイド
https://kotobank.jp/word/デジタル・ディバイド-13923
デジタルの谷間は深い。
明日は我が身なのに・・・