一所懸命なのである。
「いまは一生懸命に転じられてしまっているけど、本来の意味からして『一生』であるわけない。『一所』ですよ」
浅田次郎さんは、そう力説された。
「一所」とは自分の領分。その領分を、一人一人が力を尽くして耕す。そうした総合力が全体の力となる。このごろ忘れられつつあるが、それが日本人の美徳だったのではないか。「耕す」のは農地ばかりではない。たとえば武士にとっては、家督をつつがなく継ぐこと、家を守ることが人生だった。
だから、「一路」で描きたかったのは、一所懸命。
浅田次郎氏の「一路」を読み終えた。
先月辿った中山道、木曽路の宿場町(妻籠宿や奈良井宿)も出てくる参勤交代の物語(信州旅行2017 ー林農園・松本城・木曽路ー)
一言、面白かった!
一級のエンターテイメントの中に一筋通っているテーマが「一所懸命」。
檀ふみが書いた冒頭の「解説」からもあるようにいつの頃からか「一生懸命」の方が市民権を得てしまった感があるけれど、もともとは「一所懸命」であり、一つの場所、自分の持ち場に「命を懸ける」ということ。
ふと自問する。
我々は自分の持ち場に命を懸けているだろうか?
それだけ「一所懸命」に自分の仕事をしているだろうか?
笑いあり、涙ありの娯楽小説の中に一本力強く通っている想いにハッとさせられた。
改めて自分の持ち場、一所に命を懸けるつもりで生きていきたい。
一路に。