風の電話

 

「風の電話」をご存知だろうか。

 

東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県大槌町の海岸の小高い丘に電話ボックスがある。

 

「風の電話」と名付けられたダイヤル式の黒電話に線は繋がっていない。

 

にもかかわらず多くの人がその電話を訪ねては震災で亡くした愛する人たちに次々と話しかけるのだという。

 

設置したのは佐々木格さんという方。亡くなった従兄弟と話したいという想いから自ら電話ボックスを用意したのだとか。

 

「亡くなってしまえば、あとは繋がることはできない。残された遺族にとっては絶望だけが残る。なんとか亡くなった遺族が繋がる方法はないかと考えていたところそのときに考えついたのがこの風の電話だった」

 

電話とともに置いているノートには亡くなった人への想いが綴られている。

 

ハーバード大学の「命を考える授業」で愛する人を失くすというのはどういうことなのか、命の大切さとはどういうことなのか、を考えるためにこの「風の電話」が来年度題材になる。

 

風の電話を通して愛する人と繋がろうとする人たちはただ単に寂しさや悔しさ、辛さを和らげるためだけではなく、自分の中に溜め込んだ様々な想いを言葉にしたり発したりすることで死と向き合うことができたり、受け入れることができるという理由もあるのではないか。

 

自分の中に渦巻いている複雑な想いを言葉という形にし、自分の外に一旦出すことによってリセットされるという効能もあるのではないか。

 

震災で亡くなった方のご冥福をお祈りするとともに残された人たちがこれからも一歩一歩前を向いて歩んでいけることを心から願っている。