財布を拾った。
道端に大きな長財布が落ちていた。
拾い上げてチャックを開けると沢山のクレジットカードが入っていて、お札が何枚か見えたのですぐさま閉じて近くの交番に持っていった。
「財布拾ったんですけど・・・」
そう言うと、定年間近そうに見えた白髪を短く刈り上げた優しそうなおじさん警官がどこでいつ拾ったのかを尋ね、拾得物何とかという調書を作り始めた。
おもむろに財布を開け、お札を1枚ずつ取り出し、丁寧に並べ始める。
コインも同じようにし、クレジットカードや運転免許証も取り出しては並べる。
何度かいろんなところに電話をかけては、専門用語を使いながら何かを確認していく。
「急いんでるんで行ってもいいですか?」と尋ねると困惑した感じで「もうすぐ終わるから待ってて」と。
どうやら調書にサインをする必要があるらしい。
新年早々落とし主はさぞかし焦っているだろうし、クレジットカードのキャンセル等は手間も時間もかかるから途中で落とし主の名前がわかって勤務先の会社名も馴染みのあるところだったので直接連絡を取る方が早いのではないかと思い、警官に尋ねると問題ないとのこと。ネットで調べて電話しようとしたが検索では支店の番号は見つからず、本社にかけたもののたらい回しで結局時間切れ。
落とし主が見つからない場合(免許証やクレジットカードが入っているので見つからないことはないと思うけど、と前置きをした上で)、拾得物を引き受けるか、落とし主が見つかった場合に何割かの謝礼(?)を受け取りたいか、名前を明かしたいか、の全てに「いいえ」と答え、その権利を放棄するための署名をした。
明日は我が身。
これまでも何度も落し物をしてきたけれど、驚くほど見つかってきたのはこれまた幾度となく拾得物を届けてきたからかもしれない。
もしかすると近い将来自分が財布か何か大切なものを失くす前触れかも。
未来の恩返しになったらいいな。