再戦の勇気

 
あの人は嫌だった。
 
 
「あの人」とは先日担当になった歯医者さんの歯科衛生士Aさんのこと。
 
 
いつもは大満足しているデンタルクリニックでその日その時だけ残念な対応がなされた。
 
 
その日は初めから何かがおかしかった。珍しく待ち時間が長く、衛生士Aさんの丁寧さにかける処置のせいで痛い思いをしたあげく、義歯の型取りがうまくいかず限られた時間内で終わらなかった。おかげで再度足を運ばなければならなくなった。(帰り際、衛生士Aさんだけでなく、院長先生まで出てきて謝罪され、御代はいらないとまで言われた)
 
 
今日が再訪問の日。
 
 
「衛生士さんAでなければいいな」「あの人は嫌だなあ」「あの人にはならないだろう」「本人も院長先生も配慮してくれるはず」・・・
 
 
そんな思いをなんとなく持ちながらデンタルクリニックに着くと、待っていたのは衛生士Aさんだった。
 
 
 「ゲっ!」(と声はでなかったとは思うけれど、表情には出ていたかも??)と一瞬声が出そうになったけれど、Aさんは何事もなかったかのようにクールに診察台に案内してくれた。
 
 
席にかけた途端に前回の謝罪をされる。
 
 
そして、そこから始まった処置と気遣いの声かけは前回とは全く別人のように丁寧で心がこもっていた。
 
 
そんな姿を感じながら反省し通しの自分がいた。
 
 
衛生士Aさんは前回のことを反省し、私から逃げずに再戦を申し込んだ。
 
 
その戦いに全力をかけ、見事に信頼を勝ち取った。信頼回復に成功した。
 
 
院長先生も敢えて衛生士Aさんに再戦のチャンスを与えたのではないかと。あのまま配慮という名で担当を外していたらAさん自身が自信を失うだけでなく、私まで嫌な思いをAさんに、その医院に持ち続けることになっていたかもしれない。
 
 
Aさんの勇気と院長先生の真の配慮のおかげでその全てが霧散した。
 
 
自分の世界を狭めずに済んだ。
 
 
心から感謝したい。
 
 
衛生士さんの再戦を挑む勇気に。
 
 
院長先生の真の配慮に。
 
 
この世界に。